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トルコ語を勉強する

トルコ語を勉強しています。研究に専念する義務があるので、トルコ語に関する論文を読んで要旨や感想を書いてみたり、トルコ語に関する興味深い刊行物があれば紹介してみたり、単語帳作ってみたり、そういうことをします。以前はタタール語についても少し書いていました。

複数形の用法

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複数形の用法

先日からテュルク諸語の複数形について調査していまして、いろいろな先行研究を漁っています。次回の言語学会で発表するので、テュルク諸語についてへたなことは漏らせませんが、ちょうどゴールデンウィークで手持無沙汰ですし、下調べの成果をちょっとだけ還元します。「日本語の複数形」についてです。特に何か論じるつもりもありませんが、データだけ。

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 日本語だけ見ていてもあまり気が付かないかもしれませんが、いろいろな言語を比較してみると、ひとくちに複数形といっても実はさまざまな意味があるものです。概説書としてはCorbett (2000)が読みやすく適当です。
 本記事で必要な部分だけ解説しますと、たとえば「学生たち」という表現はふつう「複数の学生からなる集団」を指します。このようにX-PLという言語表現が「複数のXからなる集団」を指す用法をadditive pluralなどと呼びます。複数形の最も典型的な用法でしょう。
 一方、「田中たち」という表現は「複数の田中からなる集団」を指す場合もありますが、ふつう「田中を中心とした、複数の人間からなる集団」を指します。このように、X-PLという言語表現が「Xを中心として、そこに随伴者(associates)を含めた集団」を指す用法をassociative pluralなどと呼びます。定訳はありませんが、連想複数などと訳します。この場合「随伴者」の範囲は「家族」であったり、「友人など何らかのかかわりがある集団」であったり、そうでもなくて単に「その場に居合わせただけの集団」だったりと比較的幅があります。
 associative pl.については WALSの解説 もご覧ください。執筆担当のMichael DanielとEdith Moravcsikの著作も有益です。

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 本記事では日本語の複数の性質についてご紹介します。なお「日本語にそもそも複数形があるのか?」という議論は割愛します。
 日本語の「ーたち」の性質を記述した論文はいくつもありますが、ここでは(ネットでアクセスできるので)南山大学の刊行物(Nanzan Linguistics Special Issues3.2)に掲載されている Ueda and Haraguchi (2008) を紹介します。この論文は、日本語の-tatiと中国語の-menを取り上げ、その用法、統語的ふるまいを比較しています(もっとも中国語の議論はLi (1999) に頼っていますが)。統語構造に関する専門的な議論はさておき、日本語の-tatiに関する観察および容認性判断が面白いので、紹介したいと思った次第です。

 まず日本語の「ーたち」は、additive pl.の用法も、associative pl.の用法も持ち合わせています。つく名詞が固有名詞か否かは本質的ではありません。実際以下の2例は文脈により、additiveともassociativeとも解釈することができます。

 「学生たち」>(1) 複数の学生
        (2) 学生を中心として、学生以外の人々を含む集団
 「太郎たち」>(1) 複数の田中
        (2) 太郎を中心として、太郎以外の人々を含む集団

 また著者らによると、以下の2例はいずれもadditive+associativeであれば解釈が可能であるとのことです。正直、ぼくは全くこれを容認できないのですが、Twitterでつぶやいてみたところ容認できる方はちらほらいらっしゃるようです。

 「学生たちたち」>複数の学生を中心として、そこに随伴者を含めた集団
 「太郎たちたち」>複数の太郎を中心として、そこに随伴者を含めた集団

 ただし、ぼくも「学生」は無理ですが、「彼らたち」のような代名詞がからんだ場合や、「人々たち」のような不規則複数のからむものは二重複数形を許容できるので、個人差が大きいのかもしれません。
 一方「ーがた」にはassociativeの用法がないので、固有名詞につけてassociativeの読みを誘導しようとしても非文法的になってしまいます。

 「先生がた」>複数の先生
 「*スミス教授がた」>スミス教授を中心とする集団……とは解釈できない
 「*先生がたがた

 また「ーたち」はsuspendすることができます。 

 「16人の作家、評論家、思想家、科学者たち
 「太郎と花子たち

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 次に紹介するのはVassilieva (2005) です。これはassociative pl.をテーマに書かれたStony Brook大学の博士論文でして、理論部分はよく理解できませんが、そこまで大部ではなく、データとしては有用です。日本語について興味深いのは次のデータです。

 「ヒロコたち3人」「??3人のヒロコたち
 「私たち3人」「??3人の私たち

 ここではassociative pluralの場合は数量詞による前置修飾が難しいことが指摘されています。日本語のこの例は数量詞遊離がからんでいるので、通言語的にかんたんに比較できるものでもないですが、中国語を含むいくつかの言語で似たような現象が観察されるようです。

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参考文献
Corbett, G. G. (2000) Number. Cambridge University Press.
Li, Y-H. A. (1999) “Plurality in Classifier Language,” Journal of East Asian Linguistics 8, 75-99.
Ueda, Y. and T. Haraguchi (2008) "Plurality in Japanese and Chinese" in Nanzan Linguistics Special Issue 3 vol.2, 229-242.
Vassilieva, M. B. (2005) Associative and Pronominal Plurality. (Unpublished?) PhD. Thesis of Stony Brook University.
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