一般にテュルク系の言語には母音調和という現象が見られますが、タタール語も例外でなく母音調和があります。ここではひとまず、接尾辞などが付いた場合の母音調和について。
タタール語は次のような母音体系を持ちます:
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前 |
前 |
後 |
後 |
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非円唇 |
円唇 |
非円唇 |
円唇 |
高 |
i |
ü |
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u |
中 |
e |
ö |
ı |
o |
低 |
ä |
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a |
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トルコ語とは(一見)異なり、e-ı, ä-aと対応するのがミソです。
タタール語では母音調和現象により接尾辞内の母音が交替しますが、これは次の3種類であって、全て前後同化です。トルコ語のような非円唇・円唇の同化はありません。その点でトルコ語よりシンプルだと言えるかもしれません。
(1) e-ı の交替
対格-ne/-ni、DI過去形-de/-dı、受身接辞-el/-ıl、形容詞派生接辞-le/-lıなど。
(2) ä-a の交替
位置格-dä/-da、未来形-äçäk/-açak、条件形-sä/-sa、名詞派生接辞-çä/-çaなど。
(3) ü-u の交替
動名詞-ü/-u、分詞接辞-üçe/-üçıくらい? 数は少ない。
具体的には、たとえば位置格「~に、~で」は-dä/-daという2種類の形を持ちますが、これは語の最終母音が「前舌母音」なのか「後舌母音」なのかによって使い分けられるというわけです:
前舌母音であれば
Törkiyä-dä 「トルコで、トルコに」 (Törkiyä-daとはならない)
şähär-dä 「街で、街に」
İbaraki-dä 「茨城で、茨城に」
後舌母音であれば
Qazan-da「カザンで、カザンに」 (Qazan-däとはならない)
Tatarstan-da 「タタールスタンで、タタールスタンに」
Tokyo-da 「東京で、東京に」
以上のように非常に多くの接尾辞は2つの異形態を持ちます。ややこしく思えるかもしれませんが、慣れれば、舌の位置を動かさずに喋れるので楽です。
母音調和の例外は外来語に非常に多いです。
言 語学的には、母音調和は最終母音の「舌の前後位置」がそのまま接尾辞に引き継がれる現象ですが、こういった例外的な語では最終子音に「舌の前後」の情報が 残ってしまっているために、接尾辞には母音ではなく子音の情報が引き継がれ、例外的なふるまいを見せるという風に扱うと思います。コメント頂いたので一時的に消しておきます。整理がつき次第、きちんと書きなおします。
(ex) universitet-ı「大学」 tarix-ı「歴史」
最終更新
2015-3-1 とりあえず作成。例外の量足りず。
2015-3-2 Юныс Хашимовさんのコメントを反映。